はてなDiaryから移行してみました。
記事一覧

人によっては「夏かし」と呼ばれているものです。

「きのうの世界」(恩田陸)を読みました

第140回直木賞にノミネートされた「きのうの世界」(恩田陸)を読みました。

物語の舞台は水路がめぐらされ3つの塔があるM町です。M町は時代に取り残されつつある町ですが、日本の昔ながらな町が持つよい雰囲気を持っています。そんな、大きな出来事が起きないような町なのですが、この町の丘に最近、住み始めた市川吾郎が殺されます。一年後、この事件は未解決のままです。ある日、この事件に興味を持った人物がこの町を訪れ、調査を始めます。物語では、生前の市川吾郎に関わった人たちなどから、市川吾郎に関することが語られて行きます。

通常の作家の場合に上記のあらすじであれば、市川吾郎の死を突き止めて行くことが小説の主眼になるわけですが、作者が恩田陸さんですから必ずしも主眼にはなっていません。それよりも、市川吾郎の死を通して、不思議な趣きを持つM町とそこに暮らす人々を描いていくことに重みが置かれています。しかし、人々についての深い人間的な側面が描かれるわけではなく、それを味わうためにこの物語は作られているのでありません。それよりも、町のほとんどの人が忘れてしまった秘密を持ったこの町や、登場人物の不思議さを味わうということが、この小説の楽しみ方だと思います。なお、このドラマでは、他の恩田さんの小説のいくつかと同じように、超自然的なものに対するアンテナを持っている人が登場しますし、主人公の市川吾郎も普通の人が持っていない能力を持っています。

この小説は、そのような趣旨である恩田陸さんの小説を受け入れている人、つまり、恩田ワールドを受け入れている人のために作られている小説です。私自身は恩田ワールドを受け入れているのでこの作品を楽しむことができました。しかし、そうでない人がこの小説を楽しめるのかはわかりません。また、色々なタイプの選者がいる直木賞において、多くの選者が高い評価する作品ではないように思います。