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人によっては「夏かし」と呼ばれているものです。

アメリカにおける大統領就任式のスピーチと、日本の国会における漢字テスト

アメリカ大統領の就任式がありました。その際のスピーチを聞き、原稿を読み、内容が素晴らしいと思いました。以下に、子飼弾氏による翻訳(英語の原稿つき)へのリンクを貼ります*1

(前略)
我々が重大な危機のまっただ中にあることは皆さんご存知のとおりです。我が国は憎悪と暴力のネットワークと戦争中で、経済はひどく落ち込んでいています。 一部の人々の貪欲と無責任に理由があるのも事実ですが、新時代への備えを怠り、困難な選択をあとまわしにしてきた我々の一連の失敗にその原因があります。 家は失われ、職は減り、ビジネスが減っています。健康保険は高すぎ、学校は生徒を失いつつあります。そして我々のエネルギー利用の結果が、我々の敵を利 し、地球を危機に陥れているという証拠が毎日のように上がっています。
(中略)
はっきり申し上げます。我々が直面している試練は現実だと。試練は多く、そして深刻だと。
危機の克服は困難で、短期間では無理です。しかしアメリカよ、これは知っておいてください。危機は克服されます。我々がこの日この場所に集ったのは、我々が選んだからです。恐れではなく希望を。争議ではなく合議を。
この日我々が集ったのは、あまりに長い間政治を停滞させてきた、口だけのお悔やみ、守られない約束、そしてもう役割を終えた教義に引導を渡すためなのです。
(中略)
我々の目標の高さに疑念を抱く人もいるでしょう。我々のシステムはあまりに多くの大計画を実行に移す余地などないのだと。彼らは失念しています。この国が すでにどれだけのことを成し遂げてきたのかを。自由な男女の想像力が、共通の目的、必要性、そして勇気とあわさった時、どれほどの成果が得られてきたのか を。

皮肉屋に理解出来ないのは、状況が根底から覆ったということです。我々にあまりに長い時間を無駄にすることを強いてきた、不毛な政治談義はもうないのだと いうことを。政府が大き過ぎるか小さ過ぎるかはどうでもいいのです。重要なのは、それがうまくいくかどうかなのです。十分な仕事があるか。十分な給与が得 られるか。十分な保証が手に入るか。それらを手助けしているか。答えがイエスなら、我々はさらに手を入れます。ノーならそこでおしまいです。そして我々の うち公金を預かる者たちは、賢くそれを使い、悪癖を改め、やるべきことをやる責任があります。我々だけが、国家と国民の間の信頼を取り戻すことが出来るの ですから。
(中略)
そして、政府になすべきことがある以上に、アメリカを成しているのはアメリカ人自身の信念と決意にあるのだということを忘れないでください。
(後略)

404 Blog Not Found:惰訳 - Barack Obama Inauguration Speech in Full

簡単にまとめると、「アメリカの現状は厳しい。それを回復するのはすぐには無理である。しかし、我々はそれを解決しようと決意した。しかし、それには政府の力だけではなく、国民の信念と決意が不可欠である。」ということです。これに対する日本のマスコミの反応は非常に肯定的なものでした。

しかし、日本の首相が同じようなスピーチを行ったのならば、大きな批判がマスコミより起きる可能性があると思います。
「日本の現状は厳しい。それを回復するのはすぐには無理である。」と言えば、予防線をはっていると書かれる可能性がありますし、「それには政府の力だけではなく、国民の信念と決意が不可欠である。」と言えば、無責任であると書かれる可能性があります。

マスコミの対応の姿勢が、アメリカの大統領/政府に対するものと、日本の首相/政府に対するものと違う原因は、アメリカの大統領/政府の政府については適切な評価をしようとするのに対して、日本の首相/政府に対しては、(歴史的な経緯から)批判的であろうとしていることであると思います。

つまり、日本においては政府は国民の代表ではなく、「お上」であるという認識があり、「お上」に迎合せずに、その問題点を指摘することがマスコミの役目であるという考えが、戦前から脈々としてあるのだと思います。そして、政府のことを批判することがマスコミの存在意義であるとらえられているのだと思います。これは、政府だけに関することではありません。大企業よりは消費者、医者よりは患者、教師よりは生徒の立場で報道することがマスコミのあるべき姿であると考えているのだと思います。

しかし、時代は変わりました。クレーマー、モンスターペイシャント、モンスターペアレントが現れた現在においては、消費者、患者、教師が弱者であり、大企業、医者、教師が強者であるとみなして、前者の立場に肩入れして報道することが常に正しいというわけではなく、また、望まれていることではなくなりました。それは、政府についても同じです、常に政府に批判的な立場をとることが望まれているわけではありません。新聞の読者、テレビの視聴者が望んでいることは、新聞、テレビの判断が適切なことです。それが可能でないのならば、判断を加えずに真実だけを報道することです。


さて、アメリカにおいて大統領の就任式が行われているのとほぼ同じ頃、日本では、民主党の副代表の石井一衆議院議員が、参議院予算委員会において、麻生首相に漢字テスト*2を行っていました。これに対しては色々な意見があると思います。麻生首相の漢字に対する知識が乏しいことを指摘したことに喝采する人もいるし、予算委員会において漢字テストを行うことは妥当でないと考える人もいると思います。

私がこの一件について初めて知った日刊スポーツには、麻生首相を揶揄すると受け取られるような内容が書かれていました。その他の新聞社の記事も確認したのですが、石井氏よりの立場で書かれている記事が他にもあり、漢字テストを問題視する記事はありませんでした。

麻生首相に漢字クイズ、やはり怪しい答え」
 20日の参院予算委員会で質問に立った民主党の石井一議員(74)が、麻生太郎首相(68)に対し、首相就任直後、月刊誌に発表した論文から12の漢字熟語を抽出して「漢字クイズ」をしようとする一幕があった。
 石井氏は「『就中(なかんずく)』、難しいねー。『畢竟(ひっきょう)』、こんな言葉、相当高度だよね」と読み上げ「あなたの漢字力からして届く かなあ。だれかが書いてあなたが承認したんでしょう」と疑問を投げかけた。これに対し麻生氏が「皆さんが読みにくいのは『窶す(やつす)』くらいで、あと は普通にお読みになれるのでは」と強がると、委員会室中が「えーーっ」の大合唱。総理の威厳は形無しだった。
 麻生氏はこの日、かつて「みぞゆう」と誤読した「未曾有」を「みぞう」と読めたものの、「窮状(きゅうじょう)」を「しゅうじょう」と述べ、質問者の直嶋(なおしま)正行議員を「まじまさん」と呼ぶなど、漢字力の心もとなさは相変わらずのようだ。
 [2009年1月21日8時0分 紙面から]

http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp3-20090121-452171.html

しかし、「Yahoo!Newsの関連記事に対するコメント」などから推測すると、ネットでは、予算委員会において漢字テストを行うことが妥当ではないという意見の方が多数派のようです。私も、予算委員会において漢字テストを行うことは妥当だとは思いません。
22日になり、産経新聞より、『民主・石井氏らに批判殺到 首相への「漢字テスト」』という記事が書かれました。今のところ、石井氏のサイドの批判に言及した大手メディアの記事はこれだけです。

「民主・石井氏らに批判殺到 首相への「漢字テスト」
2009.1.21 23:02
漢字のパネルを示しながら質問に立つ民主党の石井一氏=20日午後1時19分、国会・参院第一委員会室(酒巻俊介撮影)漢字のパネルを示しながら質問に立つ民主党の石井一氏=20日午後1時19分、国会・参院第一委員会室(酒巻俊介撮影)

 20日の参院予算委員会の質問で、民主党の石井一副代表が麻生太郎首相に「漢字テスト」をした直後から、石井氏や同党本部に苦情が相次いだ。
(後略)

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090121/stt0901212304012-n1.htm

*1:新聞社の翻訳のページにリンクを貼っても、リンク切れになる可能性があるので、おそらくかなりの間存在するはずの子飼弾氏の訳を貼ります

*2:石井一氏の名誉のために一応書いておきますが、彼は実際には漢字テストを行っていません。しかし、この件は報道などにおいて「漢字テスト」と称されていますので、この文章でも、「(いわゆる)漢字テスト」と言う意味において「漢字テスト」と記述することにします